オライリージャパンから2021年5月18日に発売された「UXデザインの法則 ―最高のプロダクトとサービスを支える心理学」。著者は「Laws of UX」をたちあげ、「Humane by Design」「Web Field Manual」などで情報発信に携わるジョン・ヤブロンスキ。
「Laws of UX」は、UX(ユーザーエクスペリエンス:ユーザー体験)デザインと交差する心理学の法則をまとめたウェブサイトだ。この本では「Laws of UX」の中から10の法則が紹介されている。
UI(ユーザーインターフェース)/UXデザインの助けになる一冊だ。簡単に10の法則を以下に紹介する。
1.ヤコブの法則
ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにもそれらと同じ挙動をするように期待している。
ユーザビリティの専門家、ヤコブ・ニールセンが2000年に提唱。
デザイナーは、まずはありふれたパターンや習わしからデザインし、そのあとでうまくいきそうなところだけパターンから離れるようにするのがよい、ということ。
2.フィッツの法則
ターゲットに至るまでの時間は、ターゲットの大きさと近さで決まる。
アメリカの心理学者ポール・フィッツによる法則。
タッチターゲットにはユーザーが正確に押せるだけの大きさと、ほかのターゲットとの十分な間隔が必要である。そして、インターフェース内で選択しやすい場所に配置する。
3.ヒックの法則
意志決定にかかる時間は、とりうる選択肢の数と複雑さで決まる。
心理学者のウィリアム・エドモンド・ヒックとレイ・ハイマンによって1952年に定式化された。
選択肢は最小限に減らす。タスクが複雑なら、小さなステップに分解してユーザーの負荷を減らす。おすすめの選択肢を目立たせる。
4.ミラーの法則
普通の人が短期記憶に保持できるのは、7(±2)個まで。
認知心理学者のジョージ・ミラーが1956年に発表した「不思議な数“7”、プラス・マイナス2:人間の情報処理容量のある種の限界」という論文に由来。
「マジカルナンバー7」で有名な法則。情報のチャンク(かたまり)の数こそが記憶範囲に影響を与えると結論づけた。
さまざまな情報をグルーピングしてチャンク化することで、見やすくなり、流し読みもしやすくなる。
5.ポステルの法則
出力は厳密に、入力は寛容に。
TCPなどインターネット・プロトコルの構築に多大な貢献を果たしたコンピューター科学者ジョン・ポステルによる。
インターネットの流動的な性質を活用しているレスポンシブWebデザイン。幅広い入力を受け入れ、特定の画面サイズやデバイスに縛られることなくそれぞれに適切な出力を可能にしている。
6.ピークエンドの法則
経験についての評価は、全体の総和や平均ではなく、ピーク時と終了時にどう感じたかで決まる。
行動ファイナンス理論及びプロスペクト理論で有名な心理学者、行動経済学者ダニエル・カーネマンらの1993年の論文「より強い痛みの方が好まれる場合:終わりを良くする」でこの法則の証拠が見い出された。
判断における思考や合理性のエラーである認知バイアスが関連している。
ユーザーの感情のピークや終了時の心理を特定するのに役立つ「ジャーニーマップ」。
404エラーページに、ユーモアを活用することでブランドの個性を強化し、ネガティブピークを和らげることができる。
7.美的ユーザビリティ効果
見た目が美しいデザインはより使いやすいと感じられる。
1995年、日立デザインセンターの研究員だった黒須正明と鹿志村香の研究から。
プロダクトやサービスの見た目が美しければ、人は些細なユーザビリティの問題に対してより寛容になる。
見た目が美しいデザインは、ユーザーにポジティブな感情的反応を生ませ、認知能力を高めることができる。
8.フォン・レストフル効果
似たものが並んでいると、その中で他と異なるものが記憶に残りやすい。
1933年、ドイツの精神科医・小児科医のヘドウィグ・フォン・レストリフは、分類として近い項目が並ぶリストを渡された被験者が、明らかに他と異なる項目ほどよく記憶している様子を、孤立効果の概念を用いて説明した。
他と違う、目新しい、驚くべき、際立った刺激が人を引きつけ、心に残る。
9.テスラーの法則
どんなシステムにも、それ以上減らすことのできない複雑さがある。複雑性保存の法則ともいう。
1980年代中盤、ゼロックスパロアルト研究所の計算機科学者だったラリー・テスラーは、デスクトップコンピューターとDTPの開発の鍵となる対話型システムの構造と動作を定義する原則、規格、対話型デザイン言語の開発をしていた。アプリケーションそのものとユーザーインターフェースそれぞれの複雑性を減らすことは重要だが、どのようなアプリケーションやプロセスにも、取り除くことも隠すこともできない固有の複雑性があることに気付く。この複雑性は開発(=デザイン)とユーザーインタラクションのいずれかで対処する必要がある。
10.ドハティのしきい値
応答が0.4秒以内のとき、コンピューターとユーザーの双方がもっとも生産的になる。
ユーザーが感じる待ち時間をできるだけ減らす。バックグラウンドで読み込みや処理が行われている間、アニメーションを表示することでユーザーをつなぎとめられる。プログレスバーはたとえ正確でなくても待ち時間へのいらだちを和らげる。
1982年、IBM社員の2人が応答時間が0.4秒未満になると生産性が劇的に向上するという論文を発表した。論文の著者のひとり、ウォルター・J・ドハティの名前にちなんでドハティのしきい値として知られる新しい基準となった。
この10の法則はlawsofux.comにアクセスして英文を読むことができるが、英語ではなく日本語で、全編カラーで、事例もわかりやすい解説で掲載されているのが強い。1時間半もあれば十分を読めるコンパクトさなので、UX/UIに関わる部署全員で読んでおくと、意志の疎通がスムーズになるだろう。入門レベルであるものの行動経済学や認知心理学の知見を得ることで、より普遍性のあるデザイン原則策定の一助になる一冊だ。